PROJECT | 能✕AR技術

進化するメディア、挑戦するアート〜クリエイター・インタビュー

2018.03.30

多彩な才能が集結する「京都プロジェクト」。国際的に活躍するアーティストや京都を舞台に活動するクリエイターたちの制作現場を紹介します。

京都の伝統文化を次世代テクノロジーで鑑賞する

能楽師・片山九郎右衛門氏の能楽の動きをAR技術を使って鑑賞するという新たな試みに挑戦した、KYOTO VR株式会社と株式会社Skeleton Crew Studio。作品(「能×AR」)は,「文化庁メディア芸術祭京都展Ghost(ゴースト)」(日程:平成30年1月14日~2月4日)期間中及び「KYOTO PROJECT START UP FORUM」(フォーラム実施は平成30年3月21日(水・祝),展示期間は平成30年3月21日~25日)の開催に合わせて展示します。
京都に拠点を持ち、京都の文化を新しいテクノロジーで紹介している両社のクリエイターにお話を伺いました。

インタビュアー | 安齋昌幸 早稲田大学理工学術院非常勤講師(表象メディア)

── ここで皆さんはどのようなかたちで開発をされているのですか。

村上雅彦(株式会社Skeleton Crew Studio CEO、以下村上) | 僕たちはゲーム開発等を主たる事業にしている会社です。京都VRさんと一緒に、京都の伝統芸能や文化財をVR化することなどに挑戦しています。この事業はまだスタートアップの段階です。京都VRさんと共同開発することになったのは、京都VRの代表のアティカスさんと僕が昔からの知り合いだったためです。彼と話すうちに、お互いに足りない部分を補完し合うことができるのではないかと思い、この事業を一緒に開発することになりました。具体的に言うと、僕達がエンジニア作業、アプリを開発する部分を担当し、アティカスさん達がモーションキャプチャーの撮影やスキャンなどを担当しています。それぞれ役割分担することで、何か新しいことができるのではと思っています。

── 京都の地で、新しい分野の企業が出会ったわけですね。

村上 | 僕は元々滋賀県出身で、京都でエンターテインメント系の仕事をしていました。そのまま京都で起業した形です。これは実際に京都で働いてみて感じたことですが、京都は古くからモノ作りの伝統があって、こうした新しい分野でも、モノ作りとしてきちんと迎えてくれる感じがあって、あまり違和感はなかったですね。

「文化庁メディア芸術祭京都展Ghost(ゴースト)」会場にて展示された「能×AR」

── KYOTO VR株式会社のアティカスさんはどのような経緯で京都にいらっしゃったんですか。

アティカス・シムズ(KYOTO VR株式会社 代表取締役・創業者、以下アティカス) | 私はアメリカのテキサス州出身です。今から11年前に来日し、最初は高知県四万十市に1年間滞在していました。私は大学時代に合気道に出会ったのですが、合気道を学ぶために、来日したのです。合気道を学ぶ傍ら、高知では英語を教えていました。しかし日本で様々な人達に出会う中で、新しいテクノロジー、VRなどに興味を覚えるようになったのです。そして結果的に京都でVRの会社を起業したのです。

── 日本での出会いが、思わぬ方向へと舵を切るきっかけになったのですね。アティカスさんと一緒に仕事をしていらっしゃる藤井さんは、どのような経緯で、こちらにいらっしゃったのですか。

藤井ルーク(KYOTO VR株式会社 広報・宣伝) | 僕は元々、京都市左京区の出身ですが、家の関係で中学生の頃からイギリスで育ちました。イギリスの大学を卒業した後、京都に戻ってきました。その時、アティカスさんと出会い、1年半前からこちらで働いています。

左から村上雅彦さん、アティカス・シムズさん、藤井ルークさん

── みなさんがお作りになっているVRは、京都ならではの、たいへんユニークなものですね。こうしたものを作る動機は何だったのでしょう。

村上 | VRの技術を使って、日本の文化を海外に知ってもらいたいという思いがまずありました。京都には多くの伝統文化があるので、それを保存している様々な方々とお話をしまして、祇園祭や能楽といったものをVRで表現することを理解していただきました。

── 祇園祭の山鉾がVRでコンパクトに立体化されて、手の上で鑑賞できるというのは、面白い発想ですね。

アティカス | これは2年前の祇園祭の際に山鉾を撮影させていただいて、VR化が実現したものです。手の上に乗るかわいいお土産みたいな感じを目指しました。

村上 | この山鉾のVRについては、山鉾を持つ町会の方々と何度も話し合って、実現に至ったものです。やはり祇園祭は長い伝統があって、なかなか新しい試みは理解されないこともあったのですが、今回協力していただいた函谷鉾の町会の方々は、何か新しいことをやりたいねと言ってくださって、たいへん有難かったです。

── 大胆な発想に理解を示してくれたんですね。

村上 | 実際の山鉾は見上げるほどに巨大なもので圧倒されますが、こうして手の中に収まるサイズになると、なんだかかわいくなって、不思議な愛着が湧いてくるんです。そんな気持ちが祇園祭自体への愛着へと繋がるといいなと思います。

── VRだと360度すべてから山鉾の姿を眺められますが、この撮影はたいへんだったのではないですか。

アティカス | はい、山鉾を上からも撮らないといけないので、建物の3階から撮影したりしました。大型のものはドローンなどを使って撮影する場合もあるのですが、今回はドローンは使えなかったので、なかなか撮影が難しかったです。

── 苦労はあると思いますが、京都の伝統的な姿をVRに収めるというのは、海外の方に京都を理解してもらう上でも意義のあることですね。

アティカス | 私は今、西陣に住んでいますが、昔ながらの町家がどんどん減っています。こうした町並みをVR上でも保存できないかと思っています。火事や災害で失われてしまった寺社もVRやARを使って復元できればとも思います。風景や建物だけでなく、京都の様々な文化を新しいテクノロジーを使って、世界の人々に伝える方法を考えたいと思っています。

── 京都は日本でも有数の観光都市なので、そうしたニーズは大きいですね。

アティカス | 観光客の利便性を考えた仕組みもできたらいいと思います。例えば、街のあちこちに案内板がありますね。あれもARを使って、もっと便利なものになると思います。

村上 | そうですね、お寺や街の由来を記した案内板は、知らない人名や言葉が溢れていて、わかりにくいことがあるんですが、ARを使って動画や画像などを表示できるようにすれば、それについてすごく興味が湧くと思うんです。

── 海外からの観光客にはたいへん便利ですね。

村上 | 観光客について言うと、日本の観光客と海外から来た観光客では、やはり情報の受け取り方が違うんですね。京都の文化や習慣について、我々だと当たり前に思っていることも、外国人からすると、とんでもなく面白い。アティカスさんらと協業することで、そういう外国人の視点も取り入れたアプリ開発ができるのではないかと思います。

── 意外なところを海外の方は面白がってくれそうですね。

村上 | はい、京都に住んでいると単なる日常の風景みたいなものこそ、海外の人は面白がってくれます。京都の人って、こういう時にこんなことするんだねとか、この日用品はとても美しいとか、意外なところで感心してくれるのです。例えば、海外の人のブログで、京都観光をしたことを綴ったエントリーなどを見ると、京都の街の片隅にある名も無きお地蔵さんを丹念に3Dスキャンしたりしているんです。お地蔵さんはとても美しいフォルムだと感動している。そうした自分たちが日頃なにげなく素通りしているところこそピックアップしていかなければと思います。

アティカス | 360度映像で京都の節分や祇園祭を撮影して外国人に見せると、凄いリアクションが返ってきます。「ウォー!」という感じで驚嘆してくれます。日本人はもう知ってるからあまり驚かないけど、それを初めてみる海外の人たちは短い時間の映像でもとても驚いてくれるので、撮影して紹介するのは重要なことです。

村上 | やはり何も知らない、ゼロの知識の状態で見た人はとても面白がってくれますね。

── 海外の人の視点というのはとても参考になりますね。現在、取り組んでいらっしゃるVRコンテンツは、能楽ということですが、これもまた海外の人には興味深いものですね。

村上 | 能楽師の方に協力していただいて、現在製作中です。能楽師の方と相談して「羽衣」「屋島」等という演目を選びました。能楽というと、日本人でさえ馴染みの薄いものであったりするわけです。僕も何度か見に行ったことがあるのですが、寝てしまったこともありました。しかし、内容をいろいろ見てゆくと、僕らが普段思っていることやSNSでやり取りしているような気持ちが、能楽にも生きているわけです。なので理解すると面白いものなんですが、やはり取っ付きにくいところがあるので、祇園祭の手乗りの山鉾と同じように、VRのような形にして、愛着のあるものにしたら興味も湧くのではないかと思ったんです。

「能×AR」の展示風景(ロームシアター京都)

── VRというと、サメが襲ってきたり、高速スピードのレースみたいな激しい動きのものが多いと思うのですが、能楽の動きは基本的に静かなものですよね。あえてそういう動きのものをVRにする上で、特別に考えたことはありますか。

村上 | VRやARって、今はエンタメ的な世界で利用されることが多いので、そういうダイナミックな動きが強調されますが、本来、VRやARの重要なポイントは、その仮想空間に自分が本当に存在していると思わせるところにあると思うんです。今回の能楽の動きを撮影した時も、間近で見たわけですが、とても迫力のあるものでした。能楽師がすぐ目の前にいるという存在感を味わってもらえるようにすることが大事だと思っています。

── なるほど。制作していて面白かったポイントなどありますか。

村上 | 「鞍馬天狗」という演目にも取り組んだのですが、これは演者の動きが派手で、モーションキャプチャーの機器が壊れるんじゃないかなと思うくらいでした。撮影した後で、動きを細かく分析してみると、単に派手なだけではなくて、きちんとその役の意味がわかるように動きが繊細に作られていて、やはり長い歴史のあるものというのは、すごく緻密に計算されて作られているんだなと改めてわかりました。

「能×AR」で登場した「鞍馬天狗」

── 日本のこうした古い伝承的な物語については、どういう感想を持ちましたか。

アティカス | すごく面白いです。日本は島国なので、独特の文化が育ってきたんだなということを、こうした物語を通して実感しました。特に京都にはいろいろな古いものが残っていて面白いです。私の生まれたテキサスは全然古くないんですが(笑)

── 能楽のVRコンテンツを作るとなって、能楽師の方の反応はいかがでしたか。

村上 | 最初、能楽師さんに対して失礼のないようにと、僕らは緊張してかなり構えていたんですが、実際に一緒にいろいろと相談していくと、能楽師さんも何か新しいことをやって、もっと広く能楽を知ってほしいということを思っていることがわかってきたんです。僕らのやりたいことと合致するところも見えてきたので、とても双方前向きな形で制作を進めることができました。

「能×AR」のモデリング作業図

── ダメ出しみたいなことはありましたか。

村上 | ほとんど無かったですね。むしろ、こちらのオーダーに細かく応えていただき、「もう一度やりましょか」みたいな感じで、とても熱心に演じてもらえました。というか、毎回毎回パーフェクトに演じてもらったのに、機材トラブルで何度もリテイクがあって、たいへん恐縮しました。

── 完成して、様々な場所で展示されると思いますが、これを見られるお客さんにはどのような部分を見てもらいたいですか。

村上 | 能楽というと、かなり高尚なものというイメージが一般の方にはあると思うのですが、このVRコンテンツを通して、能楽を違った側面から見てほしいと思っています。能楽も元々は芸能というかエンタテインメントだったわけで、その元々持っている面白さというものを、現代のテクノロジーを使って知ってもらえればと思います。それで、実際の能楽の舞台に行ってみたいと思ってもらえれば嬉しいですね。

── 敷居が高いと思われている能楽への最初の道案内みたいになるといいですね。

村上 | こうしたものをまだ知らない人と既に知っている人が、このコンテンツを見ることで、コミュニケーションも生まれると思うんです。例えば、お爺ちゃんと孫で一緒に見にきて、能楽をめぐって新たなコミュニケーションが生まれたりすると楽しいと思います。

「能×AR」の展示風景(ロームシアター京都)

── 今後、VRコンテンツがますます盛んになっていく中で、どのような展望をお持ちですか。

村上 | まだまだVRは始まったばかりで、一般の人々にきちんと伝わっていない段階だと思います。聞いたことはあるけど、まだ体験したことがないという人が多いと思います。なので、まずは多くの人に知ってもらえるように広めたいと考えています。VRを利用する環境が様々に整えられている最中なので、そこがきちんと固まってくると、マーケットも広まっていくと思います。それまでは、こうしていろいろな会社と協業することで、情報交換やスキルの補完などをしていくことが大事だと思っています。

── 京都という地で、独自色を出したVRコンテンツをこれからもお作りになられると思いますが、次はどのようなものを考えていますか。

村上 | やはり京都の歴史ある祭ですね。もっとその魅力を伝えるために何かできないかと思っています。表面的にしか知らない人にも、祇園祭の深さというか、この大きなお祭りを支えている人々の姿や思いなどまで伝わるようなコンテンツをVRなどを使って実現できたらと思います。ただ単にコンテンツを作るだけではなくて、街のあちこちでVRを体験できるシステムなども提案していけたらと思います。京都の歴史ある伝統を新しいテクノロジーでさらに盛り上げていくことができれば、僕らのような制作者もこの街に増えていくだろうし、新たなアイデアも生まれるし、そうなると楽しいと思います。京都がVR、ARの中心的都市になるというのは夢ですね。

── 観光の仕方も変わるかもしれませんね。

村上 | そうですね。ただ単に見るだけの観光から、何かを持ち帰ってもらえる観光になればと思います。例えば、展覧会に行くと図録を買ったりしますが、そうしたものの代わりに、VRコンテンツが活用されると面白いと思います。スタンプラリーみたいに、観光で訪れた場所でVRコンテンツを取得して、いろいろコレクションできるようになるとか。

藤井 | 観光で多くの人々が訪れるスポットというと、清水寺、二条城、金閣寺を筆頭に様々ありますが、まだまだ知られていない素敵な寺社が数多くあります。そういう場所の魅力をVRを使って伝えられればと思います。それから、京都にはたいへん優れた職人さんも多くいらっしゃいますので、そういう方々の手わざもVRで紹介できたらと思います。それを見た若い世代の人が興味を持ってくれて、手わざが受け継がれていくきっかけになれたらとても嬉しいです。

── 京都の未来を支える新しいコンテンツがこれからも生まれそうですね。今日はありがとうございました。

村上 | ありがとうございました。

(2017年12月 京都にて)